2015.10.28 Wednesday

007 修正案承諾拒否の経緯と理由 - vol.1

2015年8月28日に、組織委員会の武藤敏郎さんと槙英俊さん、審査委員代表の永井一正さんの三名が行った記者会見は、7月24日の五輪エンブレム決定案発表直後に起きた、ベルギーのデザイナーのオリビエ・ドビ氏からの盗作指摘を発端に、大問題へと発展したエンブレム問題の沈静化を目指されたのだと思います。会見では、審査方法の決定理由、審査のプロセス、決定までの経緯が説明されましたが、それらの説明を聞くほどに、ますます疑念が広がりました。そのなかでも今回は、エンブレム修正案承諾拒否の経緯と理由について、考察したいと思います。まずは記者会見の公式記録から、修正案承諾拒否に関する組織委員会の発表内容を抜粋し、記録することからはじめます。

「‥‥幸い、このマークに対する類似の商標は見つからなかったため、IOC・IPCから最終的な承諾が出まして、商標申請を開始するとともに、最終案を持って、永井さんをはじめとする審査委員の皆さんに個別にご提案・ご提示に参りました。委員のひとり、平野敬子さんは、真剣に検討し選んだものは、いちばん最初の原案であるので、ここについてはそのプロセスを経ていないということで、ご承諾いただけなかったわけでございますが、残りの7名の審査委員も皆さんにはご承諾いただきまして、組織委員会でも最終決定し、冒頭申し上げました7月24日金曜日、大会5年前となる夜に、オリンピック・パラリンピックの両エンブレムを発表させていただきました。(槙英俊さん/組織委員会/マーケティング局長)」「ありがとうございました。以上のような過程を経て、大会エンブレムが完成したわけであります。‥‥(武藤敏郎さん/組織委員会/事務総長)」(聞本読報より抜粋)

また、同記者会見の質疑応答で、「槙さんにお訊ねしたいんですけれども、先ほど、『最終案を各審査員に示したところ平野さんだけ承諾をいただけなかった』というご発言があったと思うんですが、その後、平野さんから承諾がいただけなかった部分について、結果として総意じゃなかったということになるかと思うんですけども、おひと方から承諾いただけなかったという部分を、組織委員会としてどのようにご判断されて最終案の公表に至ったのか、そこの部分を改めて詳しく説明していただけますか。(TOKYO FMのスズキさん)」という重要な問いかけがありましたが、それに対する返答は、「平野さんは、先ほども申し上げましたけれども、ご自身で時間をかけて選んだのは最初のエンブレムですので、あとから出て、時間もかけられてないので承諾いただけなかったと。そのことは、組織委員会の中でも伝えまして、ただ、残りの7人の方、ご承諾、永井先生も含めてですけれども、ご承諾いただいたということで、組織委員会としてはご承諾いただということを判断いたしまして、先に進めました。(槙英俊さん)」(聞本読報より抜粋)というものでした。

何とも不可解に思うのは、私自身発言した覚えがない内容が、記者会見という『公』の場で、私の発言として発表されていることです。「平野敬子さんは、真剣に検討し、選んだものは、いちばん最初の原案なので、ここについてはそのプロセスを経ていないということで、ご承諾いただけなかったわけでございますが」、「自身で時間をかけて選んだのは最初のエンブレムですので、あとから出て時間もかけられてないので」という、これらのふたつの説明は、私が語った言葉ではなく、伝えた言葉でもありません。そして修正案を承諾しなかった理由でもありません。そのような発言をした記憶がありませんので、組織委員会が創作された文言だと思われます。

時間を遡り、2015年8月5日の記者会見を見聞したときに、私が修正案承諾を拒否したことが、組織委員会の上層部に伝わっていない可能性があると考えるようになりまして、その後、メールにて複数回、承諾していないことを伝えました。そうしたところ、8月26日に組織委員会の担当者からメールが入り、8月28日の記者会見のことを知りました。そのメールの文末には、“記者会見が開かれることを伝えることが重要なこと”という文言が添えられていましたが、連絡の目的が何であるかはすぐに理解できました。記者会見を目前に控え、修正案承諾を拒否した審査委員が1名いたという事実の取り扱いについて、“マスコミの取材攻勢から平野さんを守るための配慮のため、今までの発表では終始、修正版を審査委員の皆さんに『確認』いただいた、という言葉を使っております。8月28日の会見でも『確認いただいた』とさせていただければと思います。”という、組織委員会の意向を伝えられました。

私は即座に反応し、「私は承諾しておりません。‥‥こんな依頼を認めるわけにはいきません。どうぞ、反対し続けている審査委員として平野の名前を出して下さい。(メール本文より抜粋)」、「‥‥“修正版を審査委員の皆さんに『確認』いただいた、という言葉を使わせていただいております。”というニュアンスですが、あかたも全員が承諾しているとの印象があり、事実と異なります。私は『これはデザインの冒涜であり、こんなものは認められません。』と言い続けています。どうぞ、事実をお伝えいただきますよう、お願いいたします。(メール本文より抜粋)」という内容の、2本のメールを送りました。そして記者会見で修正案承諾拒否の事実が発表されました。

ここまでは、組織委員会主導の記者会見で、エンブレム修正案承諾拒否の事実が公表されるまでのいきさつを記述しましたが、いまからは、私と組織委員会との打ち合せの記録を基に、当事者として、修正案承諾拒否の経緯と理由を記します。これから記す内容は、組織委員会と2回にわたり行われた打ち合せのあとに、記憶を風化させないように私が書き留めておいた、『打ち合せの記録』からの抜粋です。

「修正案承諾拒否の経緯と理由」の章は、ブログ1回分に想定している文字量に収まらず、007(vol.1)と008(vol.2)の2回に分けて記録いたします。
 
平野敬子
 
平野敬子 デザイナー/ビジョナー コミュニケーションデザイン研究所 所長
白紙撤回となった2020東京五輪エンブレムの審査委員を務める
 

五輪エンブレム問題の
事実と考察
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